ストロボライトを読みました
青山景先生の「ストロボライト」について。
ネタバレしてしまうのでまだ読んでない方はご注意ください。
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この話は小説家を夢見る浜崎正が、ある日町田ミカという少女と運命的な出会いを果たし恋人関係になることに始まる青春ストーリーである。
簡単に紹介しようとするとそんな風につまらない説明になってしまうのですが、この話は何重にも面白味のある話だと思うのです。
ミカは正が傾倒するサブカル映画のヒロインを演じていた女優で、正はそれに気付いたことを切っ掛けに彼女に恋をします。
ミカも正に好意を持ち、交際をスタートするのですがそこから正はズルズルと小説を書かずに怠惰な生活を送るようになってしまいました。
いつからか心がすれ違う2人。
個人的にどちらの気持ちも分かるから胸が痛いなと思ったシーンがあります。
ちょっとした口論のあと、電話で仲直りをした2人が決定的にすれ違う場面。
「もし、たとえ正君が小説を書かないとしても、私の気持ちは変わらないから…」
恐らくミカにとってその言葉は正がいてくれればそれだけで良いという肯定の言葉だったのだと思います。
「それってさ…俺が何を書こうが書くまいが、ミカにはどうでもいいってことだよね…?」
その言葉に正はそんな風に返すのです。
ずっと小説を書くこと(夢を追いかけること)をサボっていた自覚が正にはあったんでしょうね。
その夢を追いかける自分を応援してくれてるんじゃないんだなとそう受け取ってしまったのでしょう。
卑屈な正が良くないとは思うのですが、このひねくれて捉えてしまう場面は凄く分かってしまって辛かったです。
結果的に2人は別れてしまいます。
ミカは正が自分を好きなのではなく、彼女を映画のヒロインのかわりに好きだと思っていたのではというようなことを最後に言われるのですがこれも辛いですね。
芸能人で出会う前から好きだと思っていた相手がいたとしたら、同一視もしくは神格化してしまって、本当の意味で本人を好きだと言えるのかは私も分かりません。
そんな風に2人が出会って別れるまでの恋愛ストーリーである。
それも解釈としては間違ってないとは思うのですが、実はこの話はSF的な要素も持った話なのではないかと私は考えています。
というのも、これは今現在の正が昔を思い出す回想という形の物語なのです。
今の彼は小説家で新しい彼女がいるのですが、新作を書くためにホテルにいると嘘を吐いて電車に乗っています。
そこで彼は座席でパソコンに打ち込みをしながらミカと出会ってからのことを思い返すのです。
別に普通に回想録じゃね?と思うかも知れません。
しかし不思議なことがいくつかあって、結局彼女にはホテルにいないことがバレてしまっているのですが、彼女と電車で鉢合わせた時に彼女が右手の傷を見て「…そんな傷最初からあったっけ?」とそんな風に言われる場面があります。
正は「…ああ…」とだけ答えるのですが…
そう、確かに最初の方を読み返すと正の手にそんな傷は無いんです。
ミカと出会った日に自分で投げ捨てたフロッピーディスクを探して傷を負った場面が過ぎてから、正の右手に傷が現れます。
これはどういうことを示しているのでしょうか。
作中"間テクスト性"という言葉が登場します。
調べたけれども私には難しくてこの言葉の意味は理解することができませんでした(笑)
ただ、一つ分かるのは正が打ち込む事が真実になるということ。
捏造しているという意味ではなくて、この物語を作り上げているのは誰でもなく正本人なのです。
もしも私が今キャラクターを作ったとします。
35歳と設定したとしても、そのキャラは今出来たのであって35年前には存在しないですよね。
それを自ら埋めている存在が正なのではないかと思うのです。
私たち人間ももしかしたら今この瞬間に誰かに作り上げられただけかもしれないと思ったら少し怖いですよね。
この漫画はたびたび暗転する箇所があるのですが、それはまだ作られている途中だからなのかななんて深読みしてみたりして。
本当のところはどうなのかな…
ただ、そうして何かしら考察する楽しみのある話でもあるなと私は思っています。
貴方が読んで何を感じるかは分かりませんが、文学的な作品として色んな方におすすめしたいなと思って今日、このブログを書きました。
読んでどう感じたか、もし良かったら私に聞かせてください。